朴 沙羅 著 ちくま文庫
海外生活と、その国の教育事情をレポートした本はこれまで あまたあった。 でも、それぞれに楽しく読んだし、日本とは異なる 学校生活に羨望したりもした。
この本もまた、同じように楽しく読み始めたが、だんだん 著者の話術に引き込まれてしまう。自分の体験話になると 表現ががわりと変わって、 京都弁で本音が 機関銃のごとく発せられて、 他人の思惑など何のその、 読者は 著者のペースに完全に取り込まれてしまう。
それは小気味良いスピード感と、その切り口の鋭さに 魅了されてしまっているのだ。
著者は社会学者で、フィンランドの大学に職を得て、 就学前の2人の子供を連れて生活を始める。 当然 、数々の問題に直面する。
フィンランドの子育て事情、 子供や親への支援、 移民や シングルマザー など、 困難を抱える人への 行政の的確な対応。 さすが福祉の国と思わせる。
しかし、 フィンランドも、何もかも素晴らしい国ではないらしい。 移民に対する差別は、欧州の中でもかなり高いし、 税金も高い。 ただ市民の一人一人の心の温かさは 国民性と言ってもいいかもしれない。
コロナ 禍で、保育園の登園が自粛されている中で、 園長は、今のあなたにも 子供にも必要なことだから気にせずに来てください 。と心優しい言葉をかけてくれる。 著者は、「泣くかと思った。」と記している。
また 、一時帰国する時の、出国時に渡航目的を聞かれて、「(子供たちの)父親に会う。ですけれど不要不急ですかね 。」と答えたのに対して係官は、「必要 緊急です。 良い旅を」 という。 ほのぼのとした、思いやりを感じさせる国だ。 自分だったら とてもこんな 気の利いた言葉を言えるものではない。
しかし、このような事例はこの本の中にもたくさん出てくるのだけれど 、著者は、 もし、 フィンランド お手本にして日本の改善点を知りたいのなら まず、 何が違うか 、それはどこに由来するのか 、それに対する功 悪がどこから発するのか、を考えることが必要だと言います。 情緒的なものよりもより具体的 科学的に問題点を考えることを勧める。 さすが、 社会学者の見方と思う。