「世界から戦争がなくならない本当の理由」 池上 彰著 祥伝社新書

メディアの、特にテレビの常連のような方の著作は私は読まないのですが、今回は買ってしまいました。
やはりウクライナ戦争があまりにもショッキングだったからでしょう。戦争それ自体は不幸なことに世界中で途切れることなく生起しています。戦争が起こっていることに麻痺してしまいそうです。にもかかわらず、ウクライナ戦争がショッキングだったのは、これまでのロシア、ソ連のやり方を見ればある程度想像がつくもののこの時代に世界戦争になりかねない戦争を始めたからです。限定した地域の民族紛争や国境紛争とは違うからです。

この本の主たる主張は歴史に学べ、戦争当事者は歴史に学んでいない。ということだと思います。
しかし、歴史を学ばないより学んだほうが良いに決まっていますが、歴史を学んだからといって戦争がなくなるとは思えません。だれでも本当は戦争などしたくないのです。著者も「戦争に懲りた結果、戦争を起こしたソ連」といっています。これはソ連時代に隣国アフガニスタンを自分の陣営に取り込みたくて起こした戦争です。これがいまの「IS」などにも尾を引いているといいます。きっかけの理由はウクライナ戦争に似ています。ロシアは国境線が裸では怖いのです。緩衝地帯になる国が欲しいのです。しかしあんな大きな国で、すべてに緩衝地帯を作るのは無理です。富める者の悩みと同じです。
欧米のNATO(北大西洋条約機構)に対して、以前はワルシャワ条約機構があってバランスが取れていました。しかし、ソ連が解体してワルシャワ条約機構もなくなってしまいました。これではロシアも心細いでしょう。NATO側もそのことを少し配慮すべきでした。ロシアの国の体制に変化がなければ、不安定さは取り除けません。
さて、日本についても述べています。アジア・太平洋戦争のそもそものきっかけは日中戦争にあります。
柳条湖事件、張作霖爆殺事件も現場の関東軍の暴走が原因だ、といわれます。しかし、現場の暴走をを止めない上層部の責任が一番重いのは明らかです。指示に従わない軍隊など考えられません。また、適切な指示が出せない軍も問題です。日本に反省が足りないといわれる理由はこのことではないでしょうか。
日本は責任の所在を明確にしないままにしておく、ということを過去から学んで、多くのことに責任を取りません。学ばなければならないことを取り違えているようです。
このように見ると、私は歴史に学ぶということはそれぞれ個人の資質によることが大きいのではないでしょうか。歴史から学んだことを確固とした信念のもとに実行する、そういう人間を育てることが重要なのではないでしょうか。