「人はなぜ戦争をするのか」 A・アインシュタイン、S・フロイト 浅見昇吾訳 講談社学術文庫
アルバート・アインシュタインはドイツ生まれの理論物理学者。ジグムント・フロイトはオーストリア人で、精神分析理論を確立した精神科医です。
二人は共にユダヤ系で第二次世界大戦前に米・英に亡命しています。これも何か因縁めいてはいます。
きょう12月8日は日本が太平洋戦争へと長い戦争を始めた日に当たります。そこでこんな本を紹介しようと思ったのです。
アインシュタインは1932年国際連盟から、今の文明でもっとも大事だと思われることを、一番意見交換したい相手と書簡を交わしてほしいとの依頼から始まったものだといいます。
二人の人物といい、意見交換の内容といい、とても刺激的です。しかし、このような本があるなどこれまでまったく知らなかったし、私は偶然書店で見つけたものです。本文は50頁ほどの短いもので、もう半分は解説になっています。
アインシュタインは物理学だけでなく思想家としての著作もあって、世界平和を願う国際機関が議論の当事者に指名するに適任と考えたのでしょう。そのアインシュタインが書簡を交換する相手に選んだのが心理学者のフロイトであった。人の深層心理から戦争抑止の興味深いことが語られるのではないかとページをめくりました。
私の回転の悪い頭では理解不足でした。しかしその後もう一度読み直しましたが、どうもフロイトの意見に食い足りなさを感じるのです。フロイト自身も「現実の緊急の課題を解決しようとするときに、世俗に疎い理論家に相談してみても、余り多くのことは得られないのです」と自嘲気味に述べています。しかし、長い書簡の最後で次のように述べています。
「文化を生み出した心のあり方と、将来の戦争がもたらすとてつもない惨禍への不安‥、この二つのものが近い将来戦争をなくす方向に人間を動かしていくと期待できるのではないでしょうか」
しかし、こうもいいます。「戦争は自然世界の掟に即しており、生物学的なレベルでは健全であり、現実には避けがたいものなのですから!」
また、「では、どのような状況が理想的なのでしょうか。当然、人間が自分の欲動をあますところなく理性のコントロール下に置く状況です。‥中略‥しかし、このようなことが可能なのでしょうか、夢想的な希望としか思えません。」
フロイトは心理学者として誠実に書簡で返答していることが感じられます。
紛争、戦争の種は、宗教対立、民族紛争、自国の存立や攻撃への脅威、拡張主義などです。妥協の難しい問題です。一方が「最善」と思うことが、相手方では受け入れがたいものであったり、価値観がまったく異なると、理由はともあれ停戦、ということしか考えられないのです。
世界が皆豊かになったらどうか、答えはなかなか得られそうにありません。戦争弱者に手を差し伸べるしかないのでしょうか。